車はどんどん
河回村から離れていく。
こんな遠くにアパートをわざわざ借りるとはいったいどういうことなんだろう。
ヨンスギが運転しながら「今頃は酒好きの仲間といっしょに楽しく酒盛りでもしてるわよ」と笑う。
オージャンの部屋に飲み友達でも集まっているんだろうか?
やがて車は山の中腹に作られた「安東追慕公園」という墓地に着いた。
え、まさか…?
きれいに整備された公園墓地の一角にヨンスギがシートを敷き、私とヒジョンに座るように促す。前には黒い石の墓標と芝で覆われた土饅頭型の墓が…

※墓地(
韓国では生花ではなく造花を捧げるのでいつまでも鮮やかだ。)
墓碑銘にオージャンの名前があるのを見て私は全てを悟った。
ほんの2ヶ月前、オージャンは持病の肝臓病をこじらせて突然逝ってしまったのだという。
一年ほど前のなるが私は彼からのメールを受け取っていた。「
河回村も良い季節を迎えました。ぜひ遊びに来てください」と。
筆不精のオージャンがメールをくれるとは「めずらしい」と思ったが、たまたま忙しかったせいもあり私は行かなかったのだ。
後悔の念が痛いように胸にこみ上げた。
ヨンスギに教わりながら
韓国式の礼拝を捧げ、買ってきたビールをお墓にかけた。
芝の下でオージャンが「なに泣いてんだよ!」と笑っているような気がした。

※生前のオージャン。写真を撮られるのが好きだった
家に戻ると裏庭の畑に青い小さな芽が顔をのぞかせていた。
二年前、汗を流しながら畑を耕すオージャンに「何を作るの?」と聞いたら「エゴマだよ」と答えてくれた。あのときのエゴマだ。
それがオージャンとの最後の会話になってしまった。
今は周囲の仲間たちと身体の心配をすることもなく好きなお酒を心ゆくまで堪能しているんだろう。(合掌)
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